地震に強く、安全で安心な防災芝生広場造成に関する提案

2011/08/19

芝生広場は、安全で緑豊かな環境に

 この度の東日本大震災では、各地の埋立地で大規模な液状化現象が見られました。千葉県浦安市内の埋立地でも、至るところで大規模な液状化による噴砂が発生しました。この噴砂は、ダスト舗装や平板舗装を施工した広場に顕著で(写真1.2)、芝生広場においてはそれほどではなかった(写真3.4)という事実がありました。
 ダスト舗装や平版などの人工構造物で液状化の発生しやすい埋立地表面を覆うことは、基盤の揺れに柔軟に対応できないため、地震で破壊された箇所に噴砂が現れたものと考えられます。その頻度は、芝生広場における噴砂箇所が僅かだったことに比べるならば、その量が格段に多かったことが調査により明らかにされつつあります。
 芝生地の噴砂の特徴は、芝生の生育が悪い箇所、部分的な凹地などから発生していました。言い換えれば、芝生の根系発達が不十分な箇所に噴砂したものと考えられます。芝生地内の樹木を支える支柱のくいが、表土層を貫き埋め立て基盤に到達している箇所では、噴砂はくいに沿って発生していました。このようなことから、植栽基盤が根系により補強された箇所では、噴砂を抑制する効果があったものと考えられます。従って、良好に芝生根系が伸長できる植栽基盤の造成は、景観のみならず安全な環境の創造にもつながるものと考えられます。

写真1:ダスト舗装箇所では、至るところに噴砂が認められた。

写真1:ダスト舗装箇所では、至るところに噴砂が認められた。

写真2:平板を施工した箇所からも、多くの噴砂が認められた。

写真2:平板を施工した箇所からも、多くの噴砂が認められた。

写真3:支柱のくいを打ち込んだ箇所からの噴砂。その周辺の芝生広場に噴砂がないことから、植栽基盤と根系による補強土は、噴砂を抑制したものと考えられる。

写真3:支柱のくいを打ち込んだ箇所からの噴砂。その周辺の芝生広場に噴砂がないことから、植栽基盤と根系による補強土は、噴砂を抑制したものと考えられる。

写真4:水位が高くて水が噴出した公園。しかし、根系によるフィルター効果で、噴砂は押さえられ僅かとなったものと考えられる。

写真4:水位が高くて水が噴出した公園。しかし、根系によるフィルター効果で、噴砂は押さえられ僅かとなったものと考えられる。

 芝生の根系は通常、植栽基盤の下層(20cm〜30cm)に伸長します。また、地表を這って横に延びる「ほふく茎」も発達させて地表全体を覆っていきます。芝生の生育が良好な広場では、それらの根が強く絡まり合って埋め立て造成地の上を覆い、ジオテキスタイルにも似た補強効果を発揮したものと考えられます。従って、防災に効果を発揮できる芝生広場の造成は、いかに根系を深く、横に力強く張ることができる植栽基盤を造成できるかがカギとなります。
 また、公園は地域住民にとって、生命を守る安全な避難場所であるべきです。避難した時に、もし亀裂が入っていたり噴砂が至るところで発生するならば、そこは安全な避難場所とはいえません。また、液状化が発生していなくても、降雨などで排水が悪くすぐに使用できないことは、避難広場としての適格性を欠くことになります。降雨後は速やかに排水できて、表面に水が浮かない基盤造成も必要です。

図1 グラスミックス工法の概念図

芝生基盤造成の新技術「グラスミックス工法」

 そこで、芝生用植栽基盤が経年の踏圧や車両の通行による転圧でも締め固められ沈下することなく、透水性能を損ず、芝生の良好な根系発達が担保できる「グラスミックス工法」の使用を提案します。
「グラスミックス工法」とは、大豆程度の小粒の単粒度火山砂利をかみ合わせて基盤構造を創り、その隙間に詰め込んだ「生育助材」によって芝生の根を早期に広く発達させようとする芝生基盤造成工法です(図1)。

「グラスミックス工法」の造成方法と、そのメリット

 一般的な芝生用植栽基盤の造成では、できるだけ転圧をかけず柔らかな生育基盤を造成した上に芝張りして、その後も過度の踏圧を受けないように使用するのが普通です。しかし、この「グラスミックス工法」は、施工当初からローラーなどで転圧をしっかりと行い、基盤を締め固めることから始めます。これは、芝生基盤として単粒度骨材を用いるためで、骨材同士をしっかりとかみ合わせて基盤を造成することが重要なポイントとなるからです。これにより隙間が確保でき、そこに芝生根系が伸長する事となります。
 芝張り後は一定の養生期間を経て芝生が生育すれば、踏圧が原因で植栽基盤が沈下、固結することはありません。また、仮に芝生が歩行で擦り切れても、植栽基盤に深く入った根系による早期の再生が可能です。また、液状化による噴砂に対しても抵抗性の高い芝生が造成できます。以下写真5.6に造成方法と完成した状態を示します。

写真5:グラスミックス工法の造成段階。最初から
骨材のかみ合わせをしっかりとることがポイント。

写真5:グラスミックス工法の造成段階。最初から
骨材のかみ合わせをしっかりとることがポイント。

写真6: グラスミックス工法による芝生広場の完成(東京ミッドタウンの例)

写真6: グラスミックス工法による芝生広場の完成
(東京ミッドタウンの例)

技術登録・受賞

 ■ NETIS登録
   登録番号:KK-080020-A
   技術名称:芝生用耐圧基盤材「グラスミックス」
   副  題:芝生駐車場など上載荷重がかかる場所において使用する芝生用の基盤材で、芝生の生育性が良好で、
        回復力が高い土壌である。

 ■ 東京都建設局新技術情報データベース
   登録番号:第0801013号
   技術名称:グラスミックス
   副  題 :踏圧や駐車などの上載荷重に耐える芝生用耐圧基盤材料 

 ■ 財団法人 日立環境財団 平成22年度「第37回環境賞 優良賞」受賞
   名  称:「多目的耐圧基盤土壌の開発」
   内  容:植栽において理想的な土壌基盤は、森林の上層土壌とされている。それらには有機物や養分が多く含まれ、
        柔らかい特性を持ち、透水性と同時に保水性にも優れている。一方、都市部における「緑」の周辺土壌は
        土木的に転圧を受けて締め固まっており、植物の生育不良や枯損の原因となっている。「多目的耐圧基盤土壌」
        は、人の利用による踏圧や車両の通過があっても締め固まらない、かつ森林土壌の優位性を併せ持つ基盤土壌
        として開発を行ってきたものである。

実績(臨時駐車場の事例)

名  称:国営アルプスあづみの公園 HH地区 芝生駐車場
施  主:国営アルプスあづみの公園工事事務所
施工面積:約3,000㎡
施工時期:平成16年6月下旬
使用開始:平成16年7月24日
概  要:土日以外は利用頻度が高くない駐車場で採用されました。
     侵入路を含めてブロックごと全てグラスミックス工法により緑化しています。
     駐車場として利用しない時は芝生広場として利用されている。

施工後4ヶ月

2004年10月:
駐車場としての使用の風景

施工後10ヶ月

2005年4月:施工後約1年。多少の芝生の擦り切れが見える。

施工後2年3ヶ月

2006年9月末:進入路にあたる部分の芝生の擦り切れも、早期に回復した跡が見える。

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◆ 執筆者プロフィール

写真:木田幸男

木田 幸男 (きだ ゆきお)

一般社団法人

グリーンインフラ総研 代表

(株式会社東邦レオホールディングス 専務取締役)

理学博士、技術士、樹木医

金沢大学大学院自然科学研究科修了
土壌・緑化技術の研究及び資材の開発
アメリカを中心にグリーンインフラ技術を研究
日本版グリーンインフラ技術の開発、実装
現在自治体向けに理念、ノウハウ拡散中

共著:決定版グリーンインフラ(日経BP社、2017)
連載:グリーンインフラの時代へ(環境新聞、2016)

(東日本大震災における水田の塩害・除塩対策についてのお問合せ)