地震直後でも、緊急車両の乗り入れ・ヘリポート活用が可能な芝生広場の提案

2011/08/19

防災公園入り口は、地震直後に緊急車両の進入が可能な工夫を

 防災公園とは、緊急車両の進入が障害なく行なえて、時には災害基地としての役割を果たすことが期待されます。しかし今回の東北大震災では、公園の入口部分のコンクリート構造物や石貼りの進入路が地震で破壊され、大きな段差が生じて車両の乗り入れができない事態が多く発生していました。
 本来は、自由に車両の乗り入れが出来てこそ防災公園の機能が発揮できるものです。しかし、それができないとなると、公園全体が機能不全を起こし、安全活動のための役割を果たすことができなくなる可能性があります。特に車道など強固な構造物と歩行者用通路の境では、そのような現象が顕著であった事実から、基盤構造の一体化を図るなどの対応が望まれます。写真1.2に示します。

写真1:車道と歩道など強固な構造物の境に大きな段差が生じていた。

写真1:車道と歩道など強固な構造物の境に大きな段差が生じていた。

写真2:公園進入路のコンクリート平板がめくれ上がり、緊急自動車の乗り入れができない。

写真2:公園進入路のコンクリート平板がめくれ上がり、緊急自動車の乗り入れができない。

液状化で砂に埋まらなかった芝生広場に、車両乗り入れが可能になる工夫を

 今回の地震直後には、埋立地内にある公園の芝生広場で多くの液状化現象が見られました。液状化現象とは、砂の粒子間に存在する水分が地震などで長時間揺すられて高圧化し、水と砂が分離して地上に現れる現象のことをいいます。原因は砂粒子間の微細な孔隙に含まれる地下水です。

図1 グラスミックス工法の概念図

 そこで、芝生の植栽基盤を砂と同様の微細な構造ではなく、液状化の発生しにくい大豆ほどの単粒度の火山砂利を利用して大きな孔隙をもつ構造体を造成し、その隙間に芝生の根系を広く展開させて車両の乗り入れを可能にしようとする工夫です。具体的には、「グラスミックス工法」を活用して、芝生の生育が良好で且つ車両の通行でも沈下することのない芝生用生育基盤を造成します。構造概念(図1)を示します。
 芝生の生育が良好な広場では、それらの根が強く絡まり合って埋め立て造成地の上を覆い、補強的効果を発揮します。それらは、データ上では緊急自動車が安全に乗り入れることが可能な強度であり、災害時には多くの活動を可能にします。

ヘリポートとして活用するための工夫

 緊急時にヘリコプターも離着陸が可能な防災公園があれば安心です。普段は十分な強度を備えた芝生広場であっても、埋立地では災害時に液状化が発生したり軟弱化したりする可能性が大いにあります。そのような芝生広場では、ヘリコプターの着陸は非常に危険です。
 そこで、「グラスミックス工法」の使用を提案します。この工法は、単粒度骨材による大きな孔隙を有し、且つ踏圧などの影響を受けないため、芝生の根が進入しやすく植栽基盤全体が強く緊縛します。従って、ヘリコプターの離着陸時の耐圧強度に十分耐えられる状態であるといえます。以下はイメージですが、写真3のような稲毛海浜公園の芝生広場でパワーミックス工法が使用されると、防災に大きな効果を発揮できるものと考えています。

写真3:稲毛海浜公園例

写真3:手前は激しい噴砂の後があるものの、その他の場所で芝生基盤が発達して根の伸長が十分あれば、緊急自動車の進入やヘリコプターの離着陸なども可能かもしれない。 (イメージ:稲毛海浜公園例)

緊急自動車の乗り入れ実験

 下の写真は、20トン大型はしご車のアウトリガー設置プレート(直径32cm)の沈み込みの程度で、「グラスミックス工法」が十分な荷重支持効果を発揮できるかどうかを見ようとした実験です。一般的に、アウトリガー一箇所には約5トンの荷重がかかります。緊急自動車が安全上作業を停止するまでの沈み込み深さは87mmとされています。それに対し、実験の結果は、11.3mm(平均値)というデータを得ることができました(写真4)。さらに、修正CBR値も20.6を確保できて、下層路盤としての使用に耐えられる強度を有していることも証明することができました。

写真4:大型はしご車による、アウトリガー転圧への対応実証実験

写真4:大型はしご車による、アウトリガー転圧への対応実証実験

 「グラスミックス工法」は、上部からの荷重を確実に支えながら、且つ芝生の生育を担保できることから、緊急自動車の乗り入れが想定される芝生広場の植栽基盤として活用できることが証明されています。

各アウトリガーの沈下量

左前:9mm、13mm、12mm 平均11.33mm
左後:3mm、5mm、4mm  平均4mm
右前:10mm、5mm、2mm  平均5.67mm
右後:3mm、3mm、2mm  平均2.33mm


  写真5:緊急時に大型車の通行が可能な芝生広場を設置
     (葛西臨海公園多目的広場)

防災公園での採用実績

写真5は、災害時に中央の舗装道路からはみ出して大型車や緊急車両の相互通行が可能になる処理を施した芝生地の例です。車両が芝生上を通過しても問題がないよう、植栽基盤に「グラスミックス工法」が使用されています。

名称:葛西臨海公園多目的広場
住所:東京都江戸川区臨海町六丁目
発注:東京都建設局 東部公園緑地事務所
納期:2007年10月
納入数量:170㎥

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◆ 執筆者プロフィール

写真:木田幸男

木田 幸男 (きだ ゆきお)

一般社団法人

グリーンインフラ総研 代表

(株式会社東邦レオホールディングス 専務取締役)

理学博士、技術士、樹木医

金沢大学大学院自然科学研究科修了
土壌・緑化技術の研究及び資材の開発
アメリカを中心にグリーンインフラ技術を研究
日本版グリーンインフラ技術の開発、実装
現在自治体向けに理念、ノウハウ拡散中

共著:決定版グリーンインフラ(日経BP社、2017)
連載:グリーンインフラの時代へ(環境新聞、2016)

(東日本大震災における水田の塩害・除塩対策についてのお問合せ)