地震に強い、安全で安心な街路樹育成のための提案

2011/08/19

災害時に重要な役割を果たす街路樹

 街路樹は災害発には身近で緊急の避難場所であり、高層ビルなどからの落下物から人々を保護してくれます。時に倒壊物を支え、加害物から身を守る盾の役割ともなります。また、人々を学校や防災公園などの避難場所に誘導してくれる目印でもあります。火災発生時には焼け止まり効果を発揮する、言わば水の壁ともなり、人々の精神的・肉体的な支えとなって重要な役割を果たします。
 しかし、それは健全で豊かな樹冠と樹幹を持つものであることが条件です。枝葉か少ない、あるいは細い折れそうな樹木では、身を守ることが難しく、安心して避難することはできません。災害時に大きな力を発揮できる街路樹を育てることの重要性が、今回の東日本大震災で改めて見直されました。

街路樹の根は歩道下にしっかり張らないと、地震時の倒れや浮き上がりの原因になる

 豊かな樹冠を持つ街路樹には、必ず深くて広い根系が発達していることは周知の事実です。しかし、今回の地震で、特に埋立地においては、街路樹の根が地上に持ち上がったり、傾いたりといった光景を多く目にしました。
 理由は、根系が植栽基盤周囲の土層にまでしっかりと張っていなかったためです。原因は、樹木にとっては小さすぎる植栽桝と根が伸長できない硬い歩道路床の存在です。樹木の根は水分を求めて伸長しますが、植栽枡周辺の土壌環境が良くないと根を周囲に伸ばすことが出来ず、結果根系域の小さな街路樹になってしまいます。植穴内のみで生育している街路樹は鉢植えの樹木と同様な状態となり、地震で写真1.2のように傾いたり、地上に浮き上がってしまったりするケースが多く見られました。

写真1:液状化による影響で外圧が歩道に集中し、結果街路樹が傾いてしまった。

写真1:液状化による影響で外圧が歩道に集中し、
結果街路樹が傾いてしまった。

写真2:歩道下の路床に根が展開できていないため、外圧で浮き上がってしまった根。

写真2:歩道下の路床に根が展開できていないため、
外圧で浮き上がってしまった根。

根が下層に伸長できない理由

写真3:根は条件のよい場所を選んで伸長する。

写真3:根は条件のよい場所を選んで伸長する。

 街路樹の根は、空気と水を求めて伸長します。地上部の生育とバランスをとるため、植桝内で生育しきれない根は、アスファルトやインターロッキングブロックの下に伸長して肥大生長し、やがて根上がりなどの現象を起こします(写真3)。
 それでは、写真の樹木の根はなぜ路床に根を展開できなかったのでしょうか。一般には、「土木的に強く締め固められ固くなっているため」と思われがちです。それも理由の一つではありますが、実は土中に酸素がなかったからです。植物根は酸素を必要としていますので、仮に締め固められていない土壌でも、そこに酸素がなければ伸長できません。まして、締め固められた路床は、硬くて通気性もないため、そこに根は伸びないのです。

図2 パワーミックス工法の概念図 同じ粒径の骨材で支持強度を確保し、かみ合わせ空隙に根を伸長させる。

どうすれば、根を下層に展開させられるか

 豊かな街路樹を育成するには、歩道下にある路床を生育基盤とすることが必要です。路床を有効土層として活用し、根が伸長できる場所とすることが望ましいと考えます。そのためには、十分な空気と水、それに養分を含んで且つ上載荷重に十分耐えられる構造が確保されなければなりません。そこで、根系誘導耐圧基盤「パワーミックス工法」を歩道下に設置することを提案します。

 「パワーミックス工法」とは、「基礎として締め固められた支持力のある硬さ」と、「根系が伸長できる柔らかさ」という、相反する土壌条件を同時に満たすことができる植栽基盤のことです。基本の構造は、歩道路床部に大粒径の単粒度骨材で転圧に耐えられる支持基盤を形成し、その骨材のかみ合わせ空隙に根が自由に伸長して生長できる空間を確保するものです。その強度は、車が乗っても沈下しないという特長を持ちます(構造概念図1)。

パワーミックス工法

写真4:右区のパワーミックス工法では、根は下層に向かって伸長しているが、左区では根上がりの根が出現した。

根は本当に下層に伸長するのか

 写真4は、クスノキの同一個体を活用して、植栽基盤の違いによる根の伸長の差を確認しようとしたものです。
 右区は、パワーミックス区に伸びた根の状態を示します。下層に多くの根が向かっています。左区は砂を利用した根系誘導耐圧基盤構造ですが、根は基盤内部に伸長せず、地上を這う「根上がりの根」を出現させていました。
 これは3年3ヶ月後の結果ですが、パワーミックス区の根が下方に生長しているのは、下層に水と空気が存在して生育条件に適合していたからと考えられます。根を健全に下層に伸長させるためには、根系伸長が可能な空間を持ち、通気性と保水性を併せ持つ、根にとって条件の良い構造を作ることがカギとなります。

「パワーミックス工法」の施工厚みと範囲設定

 パワーミックスの施工(写真5.6)に際しては、最低厚みを45cm以上確保します。根をしっかりと路床内部に伸長させるためには、平均厚みで60cm〜1.0mを基準とします。
 施工範囲の設定については、新植の場合はできるだけ連続した構造を造るように心がけます。例えば歩道下に施工する場合、街路樹植桝内だけでなく、歩道下全面に「パワーミックス工法」を使用することで、より安全で豊かな街路樹を形成することができます。既存樹木の改修工事の場合は、根系をエアースコップなどで追い掘りしながら、太根をできるだけ保護するようにして施工を進めます。ただし、表層から20cm程度までの根は将来の根上がりの原因となる可能性が高く、切断して発根させ、より深い位置への伸張を促します。縁石と植穴の境界面では、透水性防根シート「ルーツストップ」を施工し、歩車道浅層部への根系伸張を抑止します。

写真5 パワーミックス工法は、振動プレートなどでよく転圧して使用する(改修工事の例)。

写真5:パワーミックス工法は、振動プレートなどで
よく転圧して使用する(改修工事の例)。

写真6 パワーミックス工法の表面。大きな粒径の単粒度骨材によるかみ合わせ空隙が分かる。

写真6:パワーミックス工法の表面。大きな粒径の
単粒度骨材によるかみ合わせ空隙が分かる。

液状化現象を未然に防ぐ構造

 液状化現象とは、砂の粒子間に存在する水分が地震などで長時間揺すられて高圧化し、水と砂が分離して地上に現れる現象のことをいいます。原因は砂粒子間の微細な孔隙中に含まれる地下水です。
 この「パワーミックス工法」に使用する単粒度骨材は、粒径が40mm〜30mmと大きく、かみ合わせ空隙は約38%存在します。パワーミックス内部は湿潤状態に保たれているものの、液状化現象を起こす砂粒子のように微細な間隙ではありません。従って、植桝周辺が砂で形成された埋立地内の街路樹に見られたような液状化被害は、直接的に受けにくい構造であるといえます。 
 パワーミックス基盤まで地下水位面が認められるような地下水位の浅い箇所では、ドレーンとして作用し、地盤液状化を軽減させ噴砂を抑制することができます。このため、地盤液状化が予想される地域では、より深い位置まで「パワーミックス工法」による植裁基盤を造成することが好ましいといえます。
 パワーミックス内に根が深く広く伸長することで、樹木の生育を良好にして、樹木の傾き、根の浮き上がりを未然に防ぎ、地震対応として効果的な植栽基盤構造を造る事ができます。

技術登録・受賞

 ■ NETIS登録
   登録番号:第KK-070007-A号
   技術名称:街路樹木根の伸入・伸長を促す上載荷重対応型路床技術(パワーミックスR)
   副  題:街路樹等の風圧転倒や根上がり被害抑制技術  

 ■ 東京都建設局新技術情報データベース
   登録番号:第0601019号
   新技術名称:パワーミックスR工法
   副  題:植栽の根系伸長を促す路床の構築

 ■ 財団法人 日本発明振興協会 発明功労賞受賞(平成21年度)
   技術名称:樹木の根の誘導用基盤材およびそれを用いた地下地盤の施工方法 他

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◆ 執筆者プロフィール

写真:木田幸男

木田幸男
理学博士、技術士(都市及び地方計画)、樹木医(登録第26号)

1973年 東邦レオ株式会社入社、緑化関連事業部設立、
土壌・緑化技術の研究ならびに緑化資材の開発を主業務とする。
日本造園学会、日本緑化工学会などに参加、学・民の緑化技術のパイプ的役割を果たす。

日本緑化工学会理事
日本樹木医会理事(元日本樹木医会副会長)
日本樹木医学会評議員

(東日本大震災における水田の塩害・除塩対策についてのお問合せ) 電話: 03−5907−5502